畜産汚水処理
畜産汚水処理について
なぜ畜産業に浄化槽が必要なのか
畜産業から排出される汚水(畜産排水)は、家畜のふん尿と畜舎洗浄排水、パーラー排水などです。畜産排水は必ずしも浄化槽などで浄化して放流しなければならないという訳ではありません。平成16年に施行された「家畜排せつ物法」にも浄化槽の設置は義務付けられておらず、できるだけ循環型社会構築のため、肥料として農地へ還元することが望ましいとしています。しかし、これにはいくつかの問題点があります。
- 畜産排水を農地へ還元することの問題点
- 高濃度のミネラル、窒素、リン酸などによる土壌、地下水の汚染や農作物への害
- アンモニア、硫化水素などによる悪臭対策
- 貯留施設の確保
- 運搬、散布作業にかかる車両、機械と労力
- 散布農地の確保
これらは、一般的なゴミなどのリサイクルと似た問題を抱えています。いわゆる需要と供給のバランス(双方の都合とコスト)が噛み合わないと実現しません。これらを畜産農家が解決することは非常に困難だと思われます。それではどうすれば良いのでしょうか。それは、できる範囲で農地に還元し、できないものは浄化処理するという考え方です。具体的には、畜産排水を固液分離し、固形物は堆肥化して農地へ還元し、液体(汚水)は浄化処理して放流するということです。液体(汚水)は水質汚濁防止法により規制がかけられているため、浄化槽が必要となるのです。当社はそれぞれの農場に適した処理方法を総合的に検討しご提案いたします。
浄化槽が必要な業種は
全ての畜産業に浄化槽が必要とは限りません。一般的には下表のような処理で、浄化槽が必要なのは養豚業のふん尿、酪農業のパーラー排水です。その他、畜舎の洗浄排水が対象となる場合があります。
養豚業 | ふん尿 | 浄化槽が必要 |
---|---|---|
酪農業 | ふん尿 | 自牧草地へ還元 |
パーラー排水 | 浄化槽が必要 | |
肉牛業 | ふん尿 | 全量堆肥化 |
養鶏業 | ふん尿 | 全量堆肥化 |
軽種場業 | ふん尿 | 自牧草地へ還元 |
めん羊業 | ふん尿 | 自牧草地へ還元 |
浄化槽設置のメリット
浄化槽は畜産業の生産性向上に関連が薄く、コスト削減よりもむしろ増となる場合が多いため敬遠されがちですが、様々なメリットがあります。以下は浄化槽を導入いただいたお客様の感想をもとに列記します。
- 浄化槽設置のメリット
- 悪臭が軽減された。
- 節水の必要がなく、気にせず思う存分畜舎の洗浄ができるようになった。
- 自動化により労力が軽減され、他の作業に時間を使えるようになった。
- とにかく余計なことを気にせず、安心して本業に専念できる。
- 耕種農家の都合に合わせることなく自分のペースでスケジュールをたてられる。
どんな浄化槽が良いの?
畜産汚水処理では一般的に活性汚泥法と呼ばれる生物学的処理方法が主流です。活性汚泥法とは曝気して好気性微生物に汚濁物質を分解させる方法です。活性汚泥法を中心とし、固液分離などの物理的処理、凝集剤や消毒剤を使用した化学的処理を組み合わせて一連のシステムを構築して浄化槽とします。
当社は、独自の名前がついた微生物を使った処理方法や、特許取得のシステムなどは有しておりません。全て実績とデータに基づいた基本路線を外さずに、規模、飼育管理方法、周辺環境などを考慮してお客様の満足するシステム設計を心がけています。
- 設計コンセプト
- 事前調査、打合せは入念に行う。
- 最も経済的な設計を基本とする。(イニシャル、ランニング共)
- 既存施設で使えるものはできるだけ使う。
- 5年後以降はどうなっているか考える。
- 2案以上を考え、比較できるように提案する。
設計の留意点
- 早い段階(畜舎内)でふん尿分離する。
曝気槽の規模は原水BOD量で決まります。原水BOD量は「ふん」の混合率により大きく変わりますので、浄化槽に流入する前にできるだけ「ふん」を水に溶かさないようにすることが大切です。早い段階(畜舎内)でふんと尿を混合させない方が経済的なメリットが大きくなります。スクリーンやふるい機では固形分は除去できますが、水分に溶けた「ふん」のBODは除去できません。
- 希釈水を使用する。
汚水を曝気槽に投入する前に井戸水などで原水を希釈し、できるならばBOD濃度1,200mg/L以下に調整する必要があります。養豚業のふん尿分離型畜舎排水の場合は2~3倍に希釈する。ふん尿混合の場合は、希釈だけでは処理が困難です。パーラー排水の場合は濃度が低いため希釈水は不要です。
- 活性汚泥濃度の調整
活性汚泥を司る微生物は常時、代謝、分裂を繰り返し増殖します。また、微生物では分解できない物質も流入し蓄積していきますので、余剰分を引き抜き、曝気槽内の活性汚泥濃度を一定に保つことができる設備を必要とします。
- 余剰汚泥の処理方法
余剰汚泥は水分約99%の液体ですから、乾燥処理することは困難です。基本的には凝集剤を使用した脱水機にかけて処理します。近隣農地に散布が可能であれば、余剰汚泥は臭いがなく、量も少ないので、貯留して農地に還元することを優先とします。
- 脱窒機能を組み入れる。
水質汚濁防止法の一律排水基準である項目の「アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物:100mg/L以下」をクリアするためには脱窒機能(窒素除去機能)を組み入れることが必要です。回分式の場合は脱窒用の水槽を必要としないため経済的です。
- 水槽はRC造で箱型
曝気方法によりますが、水槽の構造は頑丈で自由に大きさ、形を変えられるRC造(鉄筋コンクリート造)が主流です。形状は円形、楕円形、すり鉢型などがありますが、型枠形成がし易い箱型が経済的です。寒冷地の場合は、スラブ密閉式で地下埋設が基本です。
- 曝気方法は散気式
散気式とは地上ブロワから曝気槽内の散気装置へ空気を送る方法です。水中や水面に設置する機械式曝気より酸素溶解効率は落ちますが、経済的でメンテナンスが断然楽です。曝気槽内の散気装置は目詰まりが起こりにくいものを選定し、固定しない方法をとります。特に回分式の場合は曝気停止時間が長く、停止頻度が高いため注意が必要です。
- 前処理脱水方式を検討する。
設計条件が厳しい程、前処理脱水方式が有利です。必ず前処理脱水方式を比較検討する。
連続式より回分式がお得
活性汚泥法の運転方法により、大きく「連続式」と「回分式」に分けられます。
- 連続式とは
曝気槽と沈殿槽を組み合わせ、汚水の投入と処理水の排出を連続的に行う標準的な活性汚泥法
- 回分式とは
沈殿槽を持たず、曝気を停止した曝気槽で活性汚泥を沈殿させ、上澄み液を排出した後1日分の汚水を投入し、翌日の入れ替えまで曝気を続ける方法。
- 「連続式」と「回分式」の比較
項目 | 連続式 | 回分式 |
---|---|---|
汚水投入、放流 | 常時(24時間連続的に稼動) | 1日に1回、1日分を投入、放流する。 |
日汚水量 | 多くても対応できる。 | 多いと対応できない。 |
移送ポンプ | 日汚水量を24時間で吐出できる程度の能力でよい。 | 日汚水量を1~1.5時間で吐出できる能力が必要。 |
曝気時間 | 常時(24時間連続的に運転) | 1日に12~14時間運転 |
曝気装置 | 標準的な設備でよい。 | 連続式の約2倍の送風量が必要。 |
沈殿槽と付帯設備 | 必要 | 不要 |
脱窒素 | 曝気槽と同じ容量の脱窒専用の水槽が必要。 | 専用の水槽は不要で曝気槽で脱窒できる。 |
操作性 | 返送汚泥の調整など微妙な調整が必要。 | 汚泥の返送は不要。 |
機械トラブル対応 | 汚水流入出、曝気を停止できないため難しい。 | 汚水流入出、曝気に停止時間があるので対応しやすい。 |
以上を総合的に考えると回分式の方がメリットが多いです。曝気装置は大きくなりますが、運転時間が短いため電気代も高くなりません。しかし、日汚水量が多いと過大な移送ポンプが必要となるため回分式では対応できません。回分式で対応できるのは以下の規模となります。比較的小規模な養豚業やパーラー排水には回分式をお勧めします。
- 回分式活性汚泥法の導入可能な規模
- 養豚業のふん尿処理
- ふるい機などで無薬注の固液分離した汚水を希釈して処理する場合
ふん尿分離型畜舎・・・肥育豚 2000頭以下
ふん尿混合型畜舎・・・肥育豚 500頭以下 - 原水を凝集剤を使用して脱水処理する場合(ふん尿混合型は希釈水使用)
ふん尿分離型畜舎・・・肥育豚 4000頭以下
ふん尿混合型畜舎・・・肥育豚 1000頭以下
- ふるい機などで無薬注の固液分離した汚水を希釈して処理する場合
- パーラー排水処理
廃棄乳、過剰なふん尿が混入しない場合・・・搾乳牛 700頭以下
最も高価な機械は脱水機
脱水機は余剰汚泥処理、原水のSS除去に効果を発揮しますが、浄化槽設備で最も高価な機械です。機械本体も高価ですが、凝集剤貯蔵、溶解、注入設備や脱水ケーキ堆積、搬出スペースの確保、寒冷地では凍結防止対策などの付帯施設が必要となり、トータル的に高額となってしまいます。脱水機を使用しない方法は、以下のごく限られた条件で可能です。
- 近隣に余剰汚泥を引き取り散布できる耕種農家があり、十分な貯留施設を有している。
- 汚泥乾燥ろ床で重力脱水する。(下図)この方法は広い面積確保が必要で、ビニールハウスなど覆い雨を防御しなくてはなりません。小規模農場で温暖な地域であれば可能だと思われますが、乾燥汚泥の回収が手間で、頻繁に目詰りする砂の交換も必要となるため、あまりメリットはなさそうです。
前処理脱水システムで
前節より、脱水機は導入せざるを得ないことが多いのですが、どうせ導入するのであれば、余剰汚泥処理専用ではなく、原水+余剰汚泥を処理する前処理脱水システムにした方が得策です。
- 前処理脱水システム
(養豚ふん尿処理で余剰汚泥のみを処理する場合との比較)
- メリット
- 回分式を採用しやすくなる。・・・養豚ふん尿分離型畜舎で肥育豚 4000頭まで
- 曝気槽を小さくできる。・・・5~6割縮小
- ふるい機などの固液分離機が不要。
- 養豚ふん尿分離型畜舎で希釈水が不要。
- 連続式の場合、沈殿槽を小さくできる。・・・4~5割縮小
- 汚泥濃縮槽、汚泥貯槽が不要にできる。
- デメリット
- 脱水機、及び周辺機器をランクアップしなければならない。
- 凝集剤の使用量が多くなる。・・・約1.3倍
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